2018-12-06
文章教室 – ⅱ – ささやかな幸せを
星降る夜のこと。
こぼれ落ちるように尾を引いて、
目の端をかすめて
漆黒の空に小さな光が消えていった。
すでに気のせいにしか思えなくなってしまった流れ星たちにも天体ショーにも疲れて、
ならばと
北の空に止まったままの一点、
ひっそり瞬く北極星を探した。
400年前の光を今私は見ている。
「名もない星がささやかな幸せを祈ってる」
この詩のこころをはじめて知るようで
なんだろう…
胸にじんと響く不思議な感覚。
遥か昔から星を眺める人の祈りが瞬きとなって私に届いているのだと信じられる瞬間。
優しいエールを感じる流星群の夜だった。
月が2つ並ぶ朋子という名前は
父方の祖母がつけてくれたもの。
「お嫁さんの名前には月が2つもあるからすごく明るいんですよって仰ってましたよ」
義母の施設のスタッフさんの言葉を信じられなくてポカンとしてしまう。
すべてに距離を線を引く生活は遠慮というより拒絶に近い。
例えばケチャップに名前を。
お米も洗剤も別々のものを…
となれば息苦しく、
生活を共にする難しさを肌に感じて、
たとえ来世になっても永遠に
わかりえることはないだろうと思ってた…
脳梗塞で倒れるまでは。
左麻痺の病は義母からプライドを奪って
心やすらかな笑顔の日々を与えた。
私はそっと肩に手をのせて
声をかける。
少女のように微笑んで
「その声が聞きたかったわ」
とギュっと握りかえして離さない。
見えない絆は揺るぎなくあったのだ。
これは義母からの贈り物。
どんなこじれた関係であったとしても、
決して諦めてはいけないという、
これからの希望。
サン=テグジュペリ
「星の王子さま」の中にある一節。
「いちばんたいせつなことは目に見えない」
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