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2019-03-31

どこにいますか おげんきですか

死と直面すると人はどんどん無欲になり聖人のように悟っていくと言われる

卵巣癌の治療終了から3年、魂が綺麗になって天使に近づく感覚を少し味わった、あの頃のあの透明な気持ちはどこかへ行ってしまった。元気になって、生き続けるということはそういうことでもあるのだと思う。

検査はきちんと受けたり健康を気遣うことは、自分を大切にすること。今年度最後は超音波検診。卵巣癌からの乳癌転移の確率は3倍から5倍と高くなる。肝臓を専門とするかかりつけの先生は8年前の私の不調は卵巣癌だとの診察がものすごく早かった!猛スピードで検査してくれた命の恩人。この医院で検査をしてもらっていれば気持ちも安心。今年も異常なしです。腹部と乳腺の超音波、血液検査…同じところで検査できるのが理想だけれど、癌の治療を卒業して検査難民になって困っている癌友も多く、自己管理は難しい。

この日の担当、超音波技師さんの顔を私は覚えてた。1年前、検査の終わりに「卵巣癌の友達のお見舞いには何が良いでしょう…」と聞かれたのだった。そのお友達の状況が厳しそうだったこと、腹水が溜まっていればなおのこと食べ物が飲みこみにくいだろうと思って「カステラ」と答えた。入院してから手術前まで、どんどん溜まっていく腹水の圧迫感で食事が食べられなくなっていって、弟の持ってきてくれる「ふわふわのおみまい」が楽しみで、またそれを肴に部屋のみんなとあーだこーだの言う時が女子寮で過ごすように楽しかったと…そんな話もしたように思う。少し迷いながら聞く。「お友達はいかがですか?」少し間があって彼は「半年前亡くなりました」と。「でもご家族と一緒に最期、穏やかにお別れできました。お見舞いもよろこんでくれて…」少し俯きながら静かに。

腹水のたまった卵巣癌の場合、抗がん剤後の再発は早く予後は未だ厳しい。生存率は30%、生存年数は平均3年。3年C組、いわゆるステージ3C、腹水に癌が散らばってしまって腹膜播種の状態で気づくことが多いから。

卒業証書だと思うと感慨深いもの

「深刻な状態から助かるか否かは、その人の持つ運。頑張ったのは本人、医師は交通整理をしているだけよ…卵巣癌から元気でさよならを言える人は多くない。何ごとにも卒業はある。あなたのこれからの人生を応援している」と最後の診察、主治医の暖かな言葉が胸にしみた。感謝と寂しさを言葉にするわたしに「もう会えないということが、私への恩返しよ」癌からの卒業を前に不安な顔してただろう私へ、どこまでもカッコよくて茶目っ気たっぷり。強靭な精神とフルマラソンを走りきる体力、そしてピアノを愛する繊細な女性医師との出会いは闘病も含めて人生感を揺り動かされるようだった。大きな病になることは不運ではあるけれど、悪いことばかりではない。今までの自分とこれからの自分を見つめ直すことにもつながる、むしろ人生の考える時でもあった。

そして…この病にかかる誰も願うのが

「癌からの卒業」

この幸運をもっと喜ばなくちゃいけないとわかっていても病院からの帰り道、心細さでいっぱいだった。もうその頃、静かに励ましてくれた義父は亡くなっていて義母も脳梗塞で倒れ施設に、母も物忘れが酷くなっていく。支えてもらう側から支える側になっていて、やるべきことに迷いのない毎日だったけれど、まるで迷子になったように自分が頼りなく、誰かの心に触れたくて、浮かんだのは今まで気遣ってくれた信頼する友人だった。素直に今までの感謝のメールを送るとその人は忙しくて大変な頃であっただろうに、でもすぐ返事をくれて、その文章は暖かかった。これからへの希望を示唆するような柔らかな励まし。何度も読み返し少し泣きながら歩いて帰った。心に灯がともるようなスッとしみこむような。今でも私を励ましてくれる。

人生には誰しも大変な時期もあるし平和な時期もあるのだと思いやれる年齢になって、家族じゃない結びつきが大きな力になる時もあるのではないか。子どもの頃から続く友人、その時々でめぐり合う人に助けられる。私も大切に思ってできうる限り応援したいと思う。そんな人に巡り会えることなど人生の中で多くはないのだから。

どこにいますか

おげんきですか

わたしは なんとかやっています

ときどき ふっとたちどまり

あなたを探す自分に気がつき

しらぬまに急ぎ足になります

どこにいますか

おげんきですか

あなたとわたしを へだててしまう

かぞえきれない春夏秋冬

みえないあなたに きりもなく

みえない手紙を書いています

どこにいますか

おげんきですか

追伸=きょうは天気です (くどうなおこ)

 

天に向って伸びる伸びる もう春ですもの

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