toggle
2022-03-01

雨水の候

新聞を取りに出ると、ポストが眩しい輝きを放っている。そのキラキラは薄く薄く広がってポストいちめんを覆ってる氷だと気づく。取り出し口まで凍ってしまって、雪の女王の世界。昨夜の雨の名残は「霜ばしら」という繊細な飴菓子のよう。みるみる華奢な氷は美しい雫になってゆく。

「雨水」の頃なのだ。
雪が溶けて水が大地を潤わせ養分を与えてくれる。この頃降る雨を'養花雨'。昨晩の雨も、この氷も地上に降りて養分を蓄える。そうして命はめぐる。希望や未来、小さな積み重ねの約束を信じられる。自然は力強くてロマンチックです。

思わぬところで接点のないものが繋がるというひょんな発見は嬉しいもの。

日本語教育の社会言語学の分野の「位相」を勉強中。『性別や地域、年齢、職業、社会的属性によりそれぞれ特徴的な語が使われる』ということをいうのですが、場面や相手によって用いられる言葉が違います。例えば漫画に出てくるお嬢様は…~ですわ。博士は…~じゃよ…刑事は犯人を「ホシ」、ルパン三世は盗みを「商売」と言ったりする。

その「位相」そもそもは物理の用語で『水は固体である時は氷であり、気体と化せば水蒸気となるのでありますが、それらの様相の相違を位相 (phase) の相違と物理学者は名付けてゐます』と。「言葉の位相」を調べている時に「物理の位相」に繋がる。大人になっての勉強の醍醐味と思います。

水に氷や水蒸気、さまざまな「位相」があるように、わたしたちは言語を人と場面によってさまざま使い分けます。位相のひとつ「方言」。独自のリズムやぬくもりに癒され、インスピレーションを感じたりします。言葉によって自分も人も変わります。気の利いた美しい飾り言葉に心を砕きがちな時、素朴でも心からひきだして自分だけの言葉を探していきたいものです。

今はコロナ禍の中、Zoomなどオンラインで人と会えることになって便利。仕事や学習、講習会などにも広がって、今やなくてはならないもの。けれど、直接会って人と話すほどには温かみは感じられないし、とても疲れます。

一緒に会って過ごした時間の中には温かくて心の糧になるようなものがあったのだと、あたりまえに人と会えなくなってから、しみじみと思います。
気がつけば紅梅は満開。清く澄んだ香りが密やかに漂う夕暮れ。仄かな香りは白梅の蕾。寒さも緩みはじめ、花はほころび、少しずつ近づく春をうっとりと感じます。
色めでて草餅を買ふ雨水かな
(藤岡筑邨)

桃の節句も近い。桜餅の葉の香りにも春。

最近の投稿
関連記事