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2020-03-19

菜虫化蝶

私は私であるのか蝶であるのか、生きている今このときが夢なのか現実なのか…本当のところは誰にもわからないのだ…古代中国の思想家・荘子「胡蝶の夢」「夢見鳥(ゆめみどり)」「夢虫(ゆめむし)」荘子の説話に由来する蝶の呼び名。
母がうとうとと眠るのをみているとそんな夢でもみているのかもしれない。
七十二候 春の訪れ

母が動けないという連絡の次の日、実家へ帰ってみると、コンニャクのように力の入らない母を身体は収集のつかないほど重い。

立ち上がらせ、トイレに行かせても、またすぐにトイレに行きたいと言い、行ったことは忘れてしまうのにはまいった…おそらく感覚が鈍ってる。これでは父の気力も体力も続くものではない。なんとかソファーに座らせて横にさせる。くったりと寝てしまう。

ふと祖母の顔に似て、そうか…心配で迎えに来ているだと、なんとなく思う。 夕食を食べさせて日帰り。

病院2件をまわって診断書を書いてもらわなくてはいけないので3日後は車で。家に入ると怒った顔をしてる父と「ずっと怒られてる」と半泣きの母。やれやれ…あいかわらず人の世話が上手くできない父なのだ。一生懸命が空回りしてしまう。午後、ケアマネジャーさんと福祉レンタルの方達からベッドの使い方、起こし方のレクチャーを受ける。やっと父も柔らかく笑えるようになる。プロの力は偉大。義母、義父とのことなど、悲しい出来事の中でも、どれほどの知恵と助けをもらっているだろう。

弟も仕事帰り1泊する。夕食後、相変わらずトイレから戻るとすぐまたトイレという。母も自分の身に起きている痛みや変化に怯えていて、不安でしかたないのだろう。近くに座って携帯ラジオのイヤフォンを耳に入れてあげて、やっと眠る。次の日は朝から整形外科を受診。圧迫骨折が腰に二ヶ所と言われ、内科の診察では膀胱の感覚が鈍くなっているのだろうとのこと。いつもの薬をもらい買い物し、ショートステイの準備、夕食の支度して帰る。渋滞なくスカッと帰宅。

病院も高速道路もコロナウイルスでガラガラ。ショートステイの買い物忘れ。自転車からの背伸びして夕焼けをみる。くたくた。どこか神経がピリピリして、うとうとと眠れない。

さて、ショートステイを終え、弟からまた一段がくんと老化が進んだとの連絡。

この何日かは、夫婦で入れるサービス付き高齢者住宅を探しに探して、案内請求してきたけれど、母だけをすぐにでも入れる施設を探す。

別れも不幸も怖れることはない。

わたしにはよくわかっているはず。けれど、気持ちは割り切れるものじゃない。そっとどかして、きちんと見送ってあげなくちゃいけないのだと胸に刻んで。

「病気は辛いできごとですが、泣きたいくらい素晴らしい出来事もいっぱい起きます 」- スカーレット 水橋 文美江

認知症は病気だろうか?

認知症は優しく長い別れの儀式のように思う。わかった時は、ただただ悲しかったけれど、ボケ具合が笑えることも、子どものように可愛いこともたくさんあって、母は頑張ってきた。もういいよ…とも思うけど、こればかりは運命だから。4.5.2018 印旛村 吉高の桜

花を見よ

其は 大地に縛られし蝶なり

蝶を見よ

其は 天に解き放たれし花なり

– ルドルフ・シュタイナー –

栃木では、蝶を死霊の化身としている地方があるのだという。祖母のお葬式が終わり、石好きであちこちに大事置いてある庭を眺めてめぐる。百日紅や小さな花々、樽でつけていた沢庵の匂いのしみついた物置。ひとつひとつ想い出をたどる。ふわりと目の前に黒い揚羽蝶が舞う。祖母の魂が別れを告げにきたのだ。
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