2022-06-01
香りを聞く 音を聴く
春から初夏は香りと音の季節です。

世界中を旅する花。オレンジの楚々とした小さな花はナガミヒナゲシといわれる。晩春までアスファルトにも咲く。佇まいは華奢でも強い強い。
子スズメたちの飛行練習は毎日。飛ぶのが下手な子スズメには厳しいレッスンが続いてるようす。シジュウカラはチラリとその騒ぎを横目にひときわ透き通るように高らかに歌う黒ネクタイ姿がスマート。風に揺めく若葉は爽やか。初夏の香りが広がります。

音の海に溺れるように過ごしていた10代、20代の頃。ふいに流れてくる洋楽に心躍らせ、歌謡曲やポップスを身体が求めるまま宿らせ、ラジオと寄り添った真夜中。今、ふとその頃の音が耳に入る時、懐かしく遠く過ぎ去ったさまざまなことが影絵のように浮かびあがったり、ふと匂いが立ち昇ったりするのです。

音楽から離れて、音とも音じゃないとも思えるようなひそやかな自然な音を聞きたい。樹々のそよぎ、雨水がもたらす静かな雫、ぐんぐん緑濃くなる芝生から立ち昇る草の香り、風と光にカーテンがふわりとなびく晩春に漂っていると、今を生きるわたしは亡き人たちと一緒に森羅万象の中にたたずんでいると感じます。どっしりと腰をおろす55年の古い家も庭もそう遠くない将来失くなってしまうから、ささやかで静かな今のひとときが愛おしく思えるのかもしれません。
春はどんどん短くなって、花たちは咲く時期を急ぐ。ゆく春を惜しむ今日の日です。



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